産業ガスとは、製造業で原料や中間材、あるいは品質向上、省エネや製造プロセスの安全のため、幅広く産業全般に使われるガスの総称です。また、病院で使用される医療用ガスもこれに含まれます。代表的な産業ガスは、酸素、窒素、アルゴン、炭酸ガス、水素、ヘリウムなど。一般的に、家庭用エネルギーとして使われる都市ガスやLPガスは除きます。こうした産業ガスを製造し、それぞれの使用現場に最適な用量、状態(圧力、温度)にして、供給するのが、私たち産業ガスサプライヤーの仕事です。

用途は多様・・・
身近にありながら、目に見えない存在ゆえに、把握しにくい産業製品

産業ガスは世の中の産業全般に広く使われており、その用途は多様です。鉄鋼、化学、ガラス、エレクトロニクス、造船、自動車、製紙、エネルギー、発電、食品・飲料、航空・宇宙、農業・バイオ、医療・生活など、現代文明をいろどる産業界のあらゆるシーンで使われているといっても過言では無いでしょう。ただ、ガス自体は無色透明のものがほとんどで、最終製品の中にガスの姿を見ることはありません。

鉄鋼

化学

ガラス

半導体・
エレクトロニクス

自動車・造船・建機

紙・パルプ

飲料・食品

航空・宇宙

農業

医療

上に挙げた産業分野は、産業ガスが活躍している需要先のほんの一例です。例えば、スマートフォンやタブレット端末といった電子機器を制御している半導体デバイス。この半導体デバイスの製造には、多種多様な産業ガスが材料として使われています。ところが最終製品であるスマートフォンをいくら眺めても、ガスの姿をどこにも見つけることは出来ません。産業ガスが、どのように活躍しているのか、最終製品の姿からイメージするのはとても難しいのではないでしょうか。産業ガスは、目に見えない、触れることのない、捉えどころない産業製品なのです。
ちょうど、私たちの身近にある空気が、私たちの生存に不可欠であるに関わらず、その存在を意識することが無いように、産業ガスもあまねく産業界に欠かせないものでありながら、その存在が意識されないのかもしれません。目には見えないけれど、人類の文明活動に欠かせない存在である産業ガスが、どんな歴史をたどり、今日どんな役割を果しているのか、具体的に紹介していきましょう。

技術革新とともに最先端産業に使われてきた産業ガス

産業ガスは、常に時代の最先端産業で使われてきました。例えば、今から100年ほど前に開発された酸素―アセチレンによるガス溶接・溶断技術。ガス溶接・溶断は、当時最先端の金属加工技術で、この技術のおかげで橋梁や鉄道など近代文明の礎となった鋼構造物の建設や加工性が大幅に向上しました。戦後の高度経済成長期には、酸素製鋼が膨大な鉄鋼需要に応えます。

1960年代、鉄鋼産業の発展とともに「鉄鋼オンサイト」が誕生
拡大
1960年代、鉄鋼産業の発展とともに「鉄鋼オンサイト」が誕生
1980年代、窒素発生装置「V1」が半導体産業への窒素供給の革命児に
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1980年代、窒素発生装置「V1」が半導体産業への窒素供給の革命児に

1980年代以降、急速に発展した半導体を搭載したパソコンなどエレクトロニクス製品の製造には、窒素をはじめ、多様な電子材料ガスが不可欠です。大量生産と微細化加工を繰り返してきた半導体製造プロセスは、液晶パネルや太陽電池パネル、LEDといった新しいエレクトロニクス製品に引き継がれ、それら新しいエレクトロニクス製品が生み出されるたびに、新たな産業ガス需要も生まれてきました。
また近年、地球規模の課題となっているオゾン層破壊や地球温暖化といった環境問題に対しても、産業ガス技術が環境負荷の低減や解決の一助となっています。例えば、酸素燃焼は化石燃料の消費を抑える省エネに貢献します。時代の要請に応じて生み出されてきた技術革新には、必ず産業ガスがともにあったのです。時代の最先端産業とともにあったから、ガス需要は途切れることなく使われ続け、ガス用途の多様性に繋がっているのかも知れません。
今日でも超電導やiPS細胞といった最先端開発領域では、新たなガス需要を生み出そうとしています。産業ガスは常に技術革新とともにあり、人類文明が新たな技術開発を続けていく限り、産業ガスの活躍の現場はこれからも次々と生まれていくことが予想されます。産業ガス事業に限界は無い、あらゆるシーンで必要とされるその永続性も特長の一つといえるでしょう。

産業ガスは変幻自在の存在

産業ガスは捉えどころない製品であるとのお話をしましたが、それはガスが圧力や温度によって姿を変える変幻自在な存在であることに起因しているのかもしれません。周知のように、物質は温度と圧力によって、固体から液体そして気体へとその姿を変え、体積も変化します。日常では経験できない超高圧や極低温の世界も産業ガスによって再現することができ、宇宙空間や超電導をはじめとする極限状況での物理現象の検証にも産業ガスの技術が応用されています。
産業ガス事業では、物質の最も基本的な構成要素である元素を商材としていますから、どこの事業者から買っても同じと思われるかも知れません。確かにどこの事業者が造っても、酸素は酸素です。しかし、お客様の使用量や必要圧力など使用条件はさまざまです。
酸素の場合、お客様の使用量に応じて、シリンダーやLGC(低温液化ガス容器)、CEタンクへの液化ガスローリー供給、深冷空気分離装置や酸素PSAといったガス発生装置によるパイピング供給など、さまざまな供給手段があります。そのため使用量や使用時間などに応じて、それぞれの条件にあった最適な供給方法でガスを送ることができます。元素としての特性は不変であるけれども、お客様の使用現場によってさまざまな姿に形を変えるのも、産業ガスの特長です。そして、お客様の使用条件に合わせて、産業ガスを最適かつ最善の方法で提供していくのが、私たち産業ガスサプライヤーの仕事です。

では、そんな産業ガスはどのように産業界に貢献しているのでしょうか?以下のページでは、産業ガス別の主な用途とその効果、さらに製造方法や関連システムを紹介しています。また、主な供給方法の特徴についても、それぞれご覧いただくことができます。

産業ガスの種類

産業ガスの供給方法