気候変動対応へのTCFDフレームワークによる情報開示について

エア・ウォーターグループは、2021年8月に金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言への賛同を表明するとともに、「TCFDコンソーシアム」に参画しました。TCFD提言では、気候変動に関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標に関する情報開示が求められています。当社グループは、提言に沿って、2022年3月に情報を開示し、毎年更新を行っています。

ガバナンス

気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する

当社グループは、気候変動の対応を重要な経営課題の一つとして認識し、気候変動に関する統括部署として、経営企画室の中に「SDGs事業推進グループ」を設置しています。同グループは、当社グループの気候変動の対応に関する諸施策を立案・実施しているほか、当社グループ内に気候変動の対応の取り組みの浸透を図るとともに進捗確認を行っています。また、事業グループ・ユニット、地域事業会社、グループ会社に、気候変動関連のリスクや機会の検討・評価を担当するTCFD推進責任者又はSDGs事業推進担当者を配置する体制とし、事業戦略・事業推進に気候変動関連の観点を反映しています。
気候変動に係る基本方針や重要事項は、最高経営委員会で審議し、重要な事項は取締役会に報告されます。取締役会は、報告された内容に対し適切に監督する態勢を構築しています。

気候変動の対応に関するガバナンス体制

※1 最高経営委員会は、代表取締役会長・CEOを議長とし、当社グループの広範囲にわたる事業領域における的確かつ迅速な意思決定を支える機関として、社内取締役と各事業部門の責任者等で構成する最高経営委員会を原則として月1回、開催しています。最高経営委員会は、広範囲かつ多様な見地から取締役会の付議事項について事前審議を行うほか、当社グループの業務執行に関する重要事項について審議を行っています。

※2 「CSR推進室コンプライアンスグループ」は、環境監査により環境法の遵守指導ならび教育により、当社グループの環境コンプライアンスリスクの管理を行っています。

戦略

気候関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への実際の及び潜在的な影響を開示する

当社グループは、経済価値と社会価値を両立した持続可能な成長を実現するため、2050年をゴールとするサステナブルビジョンをベースに中長期的な企業価値向上に取り組んでいます。また、ビジョン実現に不可欠な要素を「成功の柱(マテリアリティ)」と定義し、7つの重要課題として特定しています。気候変動への対応は、その重要課題の一つとして、事業の戦略との統合を図っています。


当社グループは、自社製品・事業の省資源・省エネルギー化および脱炭素化の促進を図るとともに、バイオガス、メタン、水素などのガス供給やCO2回収・利活用といった低炭素・脱炭素に寄与するカーボンニュートラル技術の開発や多様な事業、人材、技術を掛け合わせるシナジーによって脱炭素事業の創出を進めることで社会のGHG削減に<貢献>することを戦略としています。また、自らが排出するGHG削減は<責務>であるとし、①エネルギー使用量の削減、②エネルギーの脱炭素化、③生産プロセスの改革、④技術開発、⑤経営の効率化を基本方針とし、生産工程で使用されるエネルギーの低炭素化、省エネ設備等への投資を含む省エネルギー活動を優先的に進め、段階的な再生可能エネルギーの活用拡大や低炭素な物流事業の構築などにも取り組んでいきます。

 

また、気候変動という予測困難で不確実な事象に関するリスクと機会を特定し、それらのリスクと機会がどのように事業の戦略に影響を与えるのかを確認するためにシナリオ分析を行いました。2022年度は全ての事業ユニットとその他主要事業を対象に拡大し、「4℃シナリオ」と「1.5℃シナリオ」を用いて分析を行いました。その結果、リスク、機会共に「1.5℃シナリオ」の方が影響は大きいが、「4℃シナリオ」、「1.5℃シナリオ」のいずれも十分な対応策や機会獲得・拡大を見込んでおり、不確実な長期的な将来に対し、当社の基本戦略は十分なレジリエンスを有していることを確認しました。

シナリオ分析によるリスクと機会の検証

1. シナリオ分析で想定したシナリオ

気候変動による影響を踏まえ、世界の気温が今世紀末に産業革命前と比較して1.5℃上昇するシナリオ〈1.5℃シナリオ〉、4℃上昇するシナリオ〈4℃シナリオ〉を想定しました。

想定した各シナリオの概要

シナリオ 影響 参照シナリオ
1.5℃シナリオ 温暖化抑止に向けて技術革新や規制強化が進む(再エネ、CCUSなど普及) IEA WEO2021 2050年ネットゼロ排出シナリオ
4℃シナリオ 低炭素・脱炭素化は推進されず、物理的リスクが高まる IPCC AR6 SSPシナリオ
- 大雨・台風・洪水のような異常気象の深刻化・増加
- 平均気温の上昇・海面上昇など

2. シナリオ分析のステップ

シナリオ分析は全ての事業ユニットを対象に以下のステップで実施しました。

ステップ1 世界観の想定(1.5℃の世界、4℃の世界)
シナリオ分析の前提として、2050年の時点で自らの事業をとりまくステークホルダーの動向を想定した世界観をまとめました。


ステップ2 気候変動関連リスク・機会の想定
ステップ1で想定した世界観を前提に、TCFD提言にて例示されているリスク・機会の項目を元に事業における気候変動に伴うリスク・機会の項目を想定しました。


ステップ3 リスク重要度の評価
ステップ2で想定したリスク・機会の項目に関し、自社のビジネスモデルを踏まえ、起こりうる事業インパクトを評価し、事業において重要なものを特定しました。


ステップ4 財務影響の試算
重要と評価した項目について、財務影響の試算を行いました。


ステップ5 対応策の検討
2050年における世界観や 対応策の検討は事業への影響が顕在化する時間軸(短期〈~2024年〉、中期〈2030年頃〉、長期〈2050年頃〉)を踏まえた上で、内容を検討しました。

3. シナリオごとの分析内容

※短期(~2024年)、中期(2030年頃)、長期(2050年頃)

 

■1.5℃シナリオ

 目 顕在時期 リスク・機会の内容 対応策
移行リスク 政策規制 中期~長期 ・炭素税による製造コスト、輸送コスト、自家発電などのエネルギーコストが増加
・再エネ賦課金の上昇や減免率見直しによる製造コスト増加
・化石燃料由来の飲料用プラスチック容器やディスポーザブル医療機器のプラスチック使用禁止による代替品への対応によるコスト増加
・梱包材の生分解性材料および原材料のオーガニック制限など環境に適した製品への対応コストの増加
・温室効果や環境破壊の可能性があるガスの販売量減少
・高効率プラントの開発、省エネ設備導入、DX推進による生産性向上、製品価格に転嫁
 太陽光発電等再生可能エネルギーの導入、排出するCO2のカーボンリサイクルへの活用
・燃料転換等の製造コスト増への対応
・プラスチックリサイクル業との連携による低コスト化や新規素材や新規技術の探索
・製品パッケージの見直しや環境配慮型原材料への変更
・大気排出濃度を抑制する除害装置の販売、代替製品の開発
技術 短期~中期 ・カーボンニュートラルな代替燃料への移行に伴う生産・貯蔵・輸送へのインフラ資産への投資増加
・自家発電設備燃料の低炭素エネルギー化
・カーボンニュートラルな代替燃料用の生産・貯蔵・輸送機器の低コスト化の検討
・低炭素エネルギーによる発電の経済性と環境価値を勘案した発電プラント技術の検討
市場 中期~長期 ・温暖化による消費者行動の変化によりLPG、LNG、灯油の消費量の減少
・建設業における脱炭素性能の建材への対応による建設コスト増加
・LPG・LNG・灯油からカーボンニュートラルLPG、アンモニア・水素へ販売を転換
・ZEBの技術導入による設計施工の推進
機会 デジタル&
インダストリー
中期 ・空調、情報通信、産業機器、自動化用パワー半導体向けの、ガス・設備、特殊材料の需要拡大
・社会のデジタル化を背景とした耐熱、放熱性の高い高付加価値製品の需要拡大
・国の政策目標(低炭素化促進政策や補助金の充実)に基づくZEH普及に伴う断熱材原料(エステル製品)の需要拡大
・日持ち向上食品機能材料である酢酸ナトリウムの需要拡大
・産業ガス、特殊ガス及び特殊ケミカル品、機器等の安定供給体制の拡充
・電子材料向け高付加価値商品の開発
・既存商品の拡販や新規開発
エネルギーソリューション 短期~長期 ・脱炭素社会へ向けた動きの加速によるバイオメタンプラントやカーボンニュートラル水素プラント、CO2回収・メタネーションプラントといったカーボンニュートラルエネルギーの事業機会が拡大
・水素需要が拡大することに伴う事業機会の拡大
・バイオメタンのソース確保と技術開発・関連技術の蓄積により強固な事業基盤の形成
・高効率の水素製造方法に関する研究開発、水素バリューチェーンの技術の開発
アグリ&フーズ 長期 ・カーボンフットプリントを意識した消費者嗜好の変化によりエネルギー利用を効率化した製造設備又は製造プロセスの開発による低炭素製品の需要拡大 ・再生可能エネルギーの自家発電装置導入(太陽光発電、メタン発酵発電)
その他 中期~長期 ・低炭素な輸送を重視する顧客の増加および水素需要増に伴う供給輸送機会の拡大
・自家発電設備燃料の低炭素化によりサプライチェーン排出量の削減を志向するユーザー向けの売上が増加
・カーボンリサイクル技術の導入による新製品の開発およびCO2固定技術によるカーボン市場へ参画(クレジット化)で利益の増加
・建設業におけるZEHやZEBの需要拡大
・低炭素車両の導入と水素ステーションへの供給輸送の獲得
・自家発電設備の燃料を石炭からLNGへ更新し低炭素化
・排ガス中のCO2を炭酸カルシウムとして固定するプロセスの実用化と普及を目指した技術の早期確立
・ZEHやZEBに対応した脱炭素性能に優れた製品の開発や技術導入による設計施工の推進

■4℃シナリオ

項 目 顕在時期 リスク・機会の内容 対応策
移行リスク 市場 中期~長期 ・河川法や水道法の規制強化による水調達コスト増加
・燃料価格の上昇による輸送コスト、操業コストの増加
・農産物の生育障害などによる原材料コストの増加
・設備改造・更新、排水の再利用、製造工程の見直しによる水使用量の削減
・車両の脱炭素化、モーダルシフト、省エネによる効率化推進
・車両の低コスト燃料化
・原料調達先農園におけるスマート農業化
物理的リスク 急性 中期~長期 ・台風・豪雨・停電・海面上昇による製造拠点の設備被害、取引先の被災、交通インフラの物理的被害により生産活動、原料調達、製品輸送への影響 ・製造拠点の分散化による災害リスクの低減、設備対策BCPの策定
・保険加入および顧客との契約見直しによる補償・補填を確保
・資材や原料の購買先複数化,製品ストックポイントの活用、輸入塩の調達
・台風時の二次災害防止策と現場停止を補うための工期短縮
慢性 中期 ・原料空気の温度上昇により冷却に必要な電気が増加し、液化ガスの製造原価が上昇
・気温上昇で現場作業の生産性低下
・プラントの効率化推進(省エネ)と運転による効率化推進(省エネ)
・無人化施工技術、ロボット施工技術等の導入・展開により作業所の生産プロセスを変革
機会 エネルギーソリューション 短期 ・温暖化による漁獲量減少に伴う陸上養殖プラント事業機会の拡大 ・高密度陸上養殖のノウハウの獲得、養殖事業用サプライ品の技術開発
ヘルス&セーフティー 長期 ・温暖化による媒介動物の増加に伴い感染症が増え、感染対策関連品の需要拡大 ・注射針の大手メーカーとの共同開発や緊急時における生産増対応の確立
・除菌剤関連製品の品種ラインアップの拡大と感染症対策製品の開発、販売
アグリ&フーズ 短期 ・平均気温の上昇や真夏日の増加に伴い止渇飲料の需要拡大 ・止渇飲料の需要増加のニーズを捉えた市場調査、製品開発、増産体制、営業強化
・予測精度の高い気象予測データを用いた生産計画の策定
その他 長期 ・災害復旧工事の需要拡大 ・災害復旧工事ができる体制の拡充
・発注社や取引先とBCP体制の構築

4. 気候変動のリスク・機会に伴う財務影響

1.5℃
シナリオ
移行リスク

・化石燃料由来製品・容器などの代替品への切り替えコスト増加

・再エネ賦課金の上昇や減免率見直しによるコスト増加

・温室効果や環境破壊の可能性があるガスの販売量減少

・脱炭素化性能が十分でない建物の競争力・売上低下

・新たな炭素税制の導入により製造コスト、輸送コスト、自家発電などのエネルギーコストが増加

・化石燃料から代替燃料への移行に伴う投資増加

機会 ・燃料の低炭素化による低炭素志向ユーザー向けの売上増

・CO2固定技術によるカーボン市場への参画

・ZEH/ZEBの需要増加

・カーボンニュートラルエネルギー、水素市場への事業機会拡大

・カーボンリサイクル技術を使用した製品による売上の増加

 

4℃シナリオ 移行リスク ・燃料価格上昇による輸送コスト、操業コスト増加    
物理的リスク   ・設備被害と交通インフラの物理的被害による操業停止などのリスクが顕在化  
機会     ・防災/感染症対策製品への需要増加

リスク管理

気候関連リスクについて、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する

当社グループでは、経営の健全性・安定性を確保しつつ企業価値を高めていくために、業務やリスクの特性に応じてリスクを適切に管理し、コントロールしていくことを経営上の重要課題の一つとして認識し、リスクマネジメント体制を整備しております。


当社グループは、全社的なコンプライアンス、保安防災、環境保全および人権に関わるリスクについては、「CSR推進室コンプライアンスグループ」が統括部門として「リスクマネジメント検討会」を定期的に開催し、グループ全体におけるリスク管理体制の強化を推進しています。また、気候変動関連リスクについては、「経営企画室SDGs事業推進グループ」がTCFDの推奨するシナリオ分析の手法に基づいて、事業グループのTCFD推進責任者と共に評価・分析する体制としています。


それぞれ統括部門は、重要リスクおよび戦略・対策案について最高経営委員会及び取締役会に付議・報告することで全社のリスクマネジメントプロセスに統合する体制をとっています。


一方、事業グループ、事業ユニットでは、事業に関連するリスクの抽出・検討を行い、事業への影響度の大きい重要リスクを特定し、3か年毎の中期経営計画策定時や年度ごとの年度活動計画に具体的な戦略・対策を立案し、計画の進捗管理によりリスク管理を行っています。

 

リスクマネジメント体制

指標と目標

気候関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標を開示する

1)温室効果ガス(GHG)排出量
当社グループでは、気候関連に係るリスクと機会を測定・管理するための指標として温室効果ガス(GHG)排出量(Scope1,2,3)を算定しています。GHG排出量の算定にあたっては、2020年度からGHGプロトコルに基づいた算定をしています。

<温室効果ガス排出量> 

(千t-CO2e)

項 目

2020年度

2021年度

2022年度※

エネルギー起源CO2(国内)

2,115

2,341

2,031

  Scope1:燃料の燃焼による直接排出

675

691

336

  Scope2:他社から供給された電気等の使用に伴う間接排出

1,440

1,650

1,695

エネルギー起源CO2(海外)

749

750

794

  Scope1:燃料の燃焼による直接排出

33

23

26

  Scope2:他社から供給された電気等の使用に伴う間接排出

716

727

768

その他のGHG(非エネルギー起源CO2、メタン、N2O等)の排出

255

350

211

 (Scope1+Scope2計)

3,119

3,441

3,036

GHG排出原単位(GHG排出量/連結売上収益) t-CO2/百万円

3.87

3.87

3.02

Scope3: Scope1、Scope2以外の間接排出

2,279

5,218

3,477

※速報値

注1)2022年度は旧エア・ウォーター&エネルギア・パワー山口㈱は連結対象外のため算定対象に含めておりません。

 

GHG排出量の削減状況(2022年度実績)
2022年度のGHG排出量は、バウンダリの構造的変化および製造プロセスの省エネ、燃料転換 オンサイトPPAの導入等により事業成長分の増加を含めて2021年度比で437千t-CO2e減少となりました。目標設定対象排出源である国内エネルギー起源CO2においても、2021年度比で345千t-CO2e減少となり、2020年度比においては、削減率5.6%となっております。

2)Scope別のGHG排出量と要因別のGHG排出量

GHG排出量の2022年度の事業別および要因別について、産業ガスを製造する工場では原料空気から酸素・窒素・アルゴンを分離・精製するために圧縮機が使われており、電気の使用量が多くなっています。そのため、当社グループのGHG排出量(Scope1,2)のうち、電力使用が8割を占めています。

3)GHG排出量の削減目標

当社グループは2021年10月、「エア・ウォーターグループ環境ビジョン2050」を制定しました。その中で掲げている脱炭素社会の実現に向けて、2050年までに自社の事業活動でのカーボンニュートラルの実現とサプライチェーン全体でのGHG削減に取り組むとともに、脱炭素ビジネスにより社会に環境価値を提供していきます。環境ビジョン2050の制定を契機に、そのマイルストーンとなる2030年度のGHG削減目標を2020年度対比で30%削減※することを目標としています。
※GHGのうち、国内連結子会社のエネルギー起源CO2(Scope1・2)が対象

4)社会に対するGHG削減貢献量

2022年7月に発表した新中期経営計画「terrAWell30」では、社会課題をビジネスチャンスにすることを目指し、4つの事業グループで多様な事業を融合し、シナジーを創出することを掲げています。

その中で、脱炭素・低炭素に貢献する主な製品・サービスとして、FIT制度を活用した木質バイオマス発電事業、重油からの燃料転換によりエネルギーの低炭素化を実現する小型LNGサテライト設備「Vサテライト」、従来機器と比較して高い製造効率と消費電力の低減を実現した産業機器などを通じて、年間約203千t-CO2のGHG排出量削減に貢献しています。(2021年度実績より)

<主な脱炭素、低炭素に貢献する製品・サービス>

製品・サービス名

削減貢献量

(t-CO2e/)

備考

木質バイオマス発電

139,417

FIT制度を利用した再生可能エネルギー電力の販売

Vサテライト

54,361

重油からLNGへの燃転

低炭素を実現する産業機器の販売

8,883

水素ガス発生装置「VHR」、窒素ガス発生装置「NSP-Pro」

合計

202,661