国立大学法人北海道大学(北海道札幌市、総長:寳金 清博、以下、北海道大学)とエア・ウォーター株式会社(大阪府大阪市、代表取締役会長・CEO:豊田 喜久夫、以下、エア・ウォーター)は、共同研究を進めていた「ZnPP(亜鉛プロトポルフィリンⅨ)生成微生物を利用した食肉製品への応用」について、このたび特許を出願しました。

発色剤不使用でZnPPにより赤色を呈する生サラミ(左)と
無塩漬※で色味が悪いサラミ(中)、発色剤を使用したサラミ(右)
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発色剤不使用でZnPPにより赤色を呈する生サラミ(左)と
無塩漬※で色味が悪いサラミ(中)、発色剤を使用したサラミ(右)

※発色剤には肉が持つ赤い色素を固定し、食肉の色調を良くする働きがあるが、無塩漬とはその発色剤を使用せずに塩漬け工程を行うこと

【概要】
北海道大学大学院農学研究院の若松純一准教授らは、発色剤(肉色の固定を目的とする亜硝酸Na等の食品添加物)不使用で鮮やかな赤色を呈している乾塩漬生ハム(パルマハム)の赤色色素がZnPPであることを明らかにしました。


ZnPPは食肉の内在成分により形成されると考えられていますが、現在まで形成機構は完全には解明されていません。一方、食肉の外因性要因として、若松准教授らはラクトコッカス属に属する乳酸菌がZnPP形成阻害因子である酸素が存在する好気的条件下であってもZnPP形成を促進することも見出しました。


エア・ウォーター農業・食品開発センターは、本共同研究において上記の乳酸菌によるZnPP形成技術を利用した製品の製造を目指して製法の研究を行いました。そこで、サラミの製造において利用できる新たな製法を発見し、製法特許を北海道大学と共同出願しました。

 

【共同研究の目的】
食肉製品に用いられる発色剤由来の亜硝酸は酸性条件下でアミンやアミド類と反応すると、発がん性のN-ニトロソ化合物を産生します。食肉製品への発色剤添加量は極微量であり、一日摂取許容量(ADI)が算出され使用基準が決められている一方で、添加物を忌避する傾向は年々強まり、健康への危険性を危惧する消費者は、色調は劣るものの、発色剤を使用せずに作られた無塩漬食肉製品を選択しています。


しかしながら、食欲の高まる肉の赤色を求める声も多く、発色剤不使用かつ赤色を呈する食肉製品は長年の課題でもありました。なお、発色とは異なり着色料を用いて赤色とする手法も存在しますが、肉色の固定とは大きく異なり再現できないことが課題でもあります。


エア・ウォーターではグループ会社の大山春雪さぶーる 早来工場(北海道安平町)を中心に生ハムを製造しており、国内トップシェア※を誇る生ハムの研究に継続的に取り組むことで、食肉向けの微生物制御や浸透圧調整、乾燥技術を培ってきました。


北海道大学大学院農学研究院によるZnPP研究が進み、実用化への足がかりが整ったことを契機に2021年7月より、発色剤不使用でもZnPPにより色調の良い食肉製品の製法を確立することを目的とした共同研究をスタートしました。

※2022年度実績、エア・ウォーター調べ

 

【研究成果】

食肉製品の中でも微生物の発酵制御が安定するサラミを対象としてZnPPを形成する製法を研究しました。通常サラミは豚挽肉に調味料や香辛料を添加して混合した生地をケーシング充填後に、乾燥させ製造しています。これに対し、今回新たに発見した製法は、豚挽肉に調味料や香辛料の添加とともに乳酸菌を混合し、ケーシングに充填しました。これを食塩とブドウ糖の水溶液に浸漬し、発酵を行います。


この方法により、乳酸菌の発酵を最適にコントロールでき、安定的にZnPPを形成することに成功しました。この際、使用する乳酸菌の種類は限定せず、市販の入手しやすい乳酸菌を使用可能です。その後、通常のサラミと同様に乾燥工程を経ます。国内最大の生ハム工場を傘下にもつエア・ウォーターとの研究により、生ハム製法の技術展開ともいえる液漬け工程の開発に至りました。

この液漬け製法により、課題であったサラミ表面へのZnPP生成には特定の乳酸菌の使用が必要である点、乾燥工程時のカビの胞子等が意図に反して付着する微生物性異物混入、またZnPPの形成に時間がかかる点を解決しました。結果、発色剤不使用でも色調の良いサラミの製造が可能となりました。また、安定的なZnPPの生成により、実生産における品質のばらつきも解決できました。

 

【今後の展望】
エア・ウォーターが2023年9月13日、北大阪健康医療都市(健都)に開業するオープンイノベーション推進施設「エア・ウォーター健都」内の「スクエアキッチン(カフェ)」にて、本製法を利用したサラミを商品として2024年より提供予定です。エア・ウォーターでは、お客様の声を次なる開発につなげていくとともに、小売店での販売も検討中です。

 

また、乾燥食肉製品のため食品衛生法にて食塩の添加量に決まりはなく、食肉の重量に対して3.3 %以上の食塩の添加が定められている非加熱食肉製品よりも塩分調整がしやすいことから、減塩製品の開発につなげることも可能です。さらに、エア・ウォーターでは、本製法の応用による、生ハムやパンチェッタなど単一肉塊品のほか、加熱ソーセージなど食肉製品全般においても“無塩漬でZnPPにより色調の良い製品”の研究開発を進めていきます。


北海道大学は、本色調改善に係る技術指導等を行っていく予定です。

*1 乾燥食肉製品・非加熱食肉製品:食肉製品の食品衛生法上の区分。この区分により成分規格や製造基準、保存基準が異なる。
*2 水分活性:微生物の生育に利用できる水(自由水)の量を表す。自由水の量が少ないと微生物は増殖しづらくなる。

 

以 上

お問い合わせ先
北海道大学大学院農学研究院 准教授 若松純一(わかまつじゅんいち)
TEL 011-706-2547 メール jwaka@agr.hokudai.ac.jp

 

エア・ウォーター株式会社 アグリ&フーズグループ 農業・食品開発センター長 兼 応用技術開発グループ 参事

操上 誠(くりかみまこと)
TEL 080-5723-0234 メール kurikami-mak@awi.co.jp

 

配信元
北海道大学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
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エア・ウォーター株式会社広報・IR推進室(〒542-0081 大阪市中央区南船場2丁目12番8号)
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