「5,4,3,2,1… ゴォォー」
2023年12月7日のお昼過ぎ、ロケットエンジンから勢いよく炎が噴射され、数秒後には青白くほぼ透明な炎が安定して出力されました。
ここは北海道大樹町にあるロケットベンチャーのインターステラテクノロジズ社のロケット発射場兼燃焼試験場。2023年12月現在、開発が進められている小型人工衛星打上げロケットZEROのエンジン燃焼試験が公開され、多数の報道陣が詰めかけました。
さて、今回燃焼試験が行われたロケットの燃料はいったい何からできているのでしょうか。
実は、近隣の酪農家が飼育する乳牛のふん尿が原料となっているのです。エア・ウォーターは、この家畜のふん尿由来のエネルギーに着目し、グループ総力を挙げて製造から消費に至るサプライチェーン構築に取り組んでいます。
このエネルギーの正体は「液化バイオメタン(LBM:Liquefied Bio Methane)」。酪農家が飼育する乳牛のふん尿由来のバイオガスを原料とし、その中に含まれるメタン分を抽出・液化したものであるため、カーボンニュートラルな燃料です。
また、酪農が盛んな地域においてはクリーンで持続可能な国産エネルギーとなり得ます。家畜ふん尿を廃棄物ではなく未利用のバイオ資源と捉え、新しいエネルギーを創出することで、家畜ふん尿に起因する臭気や水質汚染などの減少にもつながると考えており、北海道における社会課題解決型の事業モデルの構築を目指しています。
2022年10月に十勝地方の中心都市である帯広市に製造プラントが稼働して以降、工場、トラック・船などの輸送機器、都市ガスなどへ供給実証を行っており、ロケット燃料向けには本年7月に採用が決定して以降、貯槽を設置するなど供給準備を進めてきました。
試験終了後、インターステラテクノロジズの稲川社長は、報道陣の取材に対し「ロケットの打ち上げに牛ふん由来の燃料を使うことは、ロケットの性能も下がらず、コストパフォーマンスもよく、さらに環境にも良い。トータルで優れた経済循環だと思います。2024年度以降の打ち上げを目指し、地域の酪農家やエア・ウォーターさんらとともに、打ち上げに向けた準備をさらに進めていきたいです。」とコメントされました。
一方、長年この地域で酪農を営まれている方々は、こうした取り組みをどのように感じていらっしゃるのでしょうか。
現在、エア・ウォーターグループでは、ロケット射場と同じ大樹町内にある水下ファーム様にご協力いただき、乳牛のふん尿からエネルギーを製造する取り組みを行っています。
ファームの代表者水下社長はこう語ります。「ふん尿という廃棄物を未利用の資源と捉え、本気でエネルギーとして活用したいという話だけでも驚きました。乳牛のふん尿が、ここ大樹町から発射されるロケット燃料として使われることを、大変楽しみにしています。成分としては既存の燃料と変わりないものができると言われているので、無事実証が進むことを期待したいです。ゆくゆくは地域の酪農家の多くが参加できるように、道内のほかの地域でもこうした取り組みが進むとよいですね。」
ふん尿の処理は全ての酪農家に共通する悩みのタネだと言われています。特に、未来の酪農を考える上で、環境問題はますます重要になっています。世界の潮流である低・脱炭素に貢献するエネルギーとして、家畜のふん尿がより良い形で循環し、環境に優しいエネルギーとなる未来が見え始めています。
化石燃料由来ではないバイオマス由来の燃料を使ったロケットエンジンの燃焼試験は民間企業としては世界初。まだ、家畜のふん尿由来のエネルギーでロケットを打ち上げたことはありません。大樹町からZEROが打ち上がる際には、さらなる注目を集めることが期待されます。
インターステラテクノロジズ社は、ロケット燃料の選定に際して、液化バイオメタンのその高い性能だけでなく、同じエリアにある工場から入手できるという調達性、さらにロケット重量の大半を占める燃料をサステナブルにすることで地球温暖化対策に貢献するということまでを総合的に勘案して決定したと発表されています。
エア・ウォーターは、こうした再生可能エネルギーを活用される需要家と、ふん尿由来のバイオガスを有効活用したい供給元の双方のニーズを安定的に満たすことができるよう、十勝地方におけるサプライチェーンの拡充を進めています。
また、地元の小学校の総合学習として、出前授業や液化バイオメタン製造工場の見学を実施したり、本取り組みに協力いただける酪農家さんへのお声がけをしたりするなど、自治体や地域社会と連携して、本取り組みの周知を進めています。さらに、アジアの商業宇宙港を目指す「北海道スペースポート」が立地する北海道大樹町へは社員の派遣を行うなど、地域における宇宙ビジネスの広がりを地域の産業発展そのものと捉え、今後も航空・宇宙関連産業の発展に向けた取り組みを進めていく予定です。
更新日:2023年12月