2022年10月、北海道帯広市の郊外にあるエア・ウォーターグループのガス充填所に隣接して、真新しいプラントが建設されました。「LBM製造プラント」と掲げられたこの場所で製造されるのは「液化バイオメタン」という新しいエネルギー。液化バイオメタン・通称LBMとは、Liquefied Bio Methaneの略。LNG(液化天然ガス)を海外から輸入するのではなく、LNGの主成分であるメタンをバイオ資源からつくる取り組みです。それでは、このバイオ資源とはいったい何なのでしょうか。

北海道は、冷涼な気候を生かした酪農が盛んな地域。十勝地方周辺の酪農家で飼育されている乳牛のふん尿が、実は、この新しいエネルギーの原料となります。
LBM製造プラントは、ふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンを精製し、冷却して液化する装置であり、ここで製造した液化バイオメタンは、LNGの代替燃料として、工場のボイラー燃料やトラックの燃料などとして使用されることが期待されています。

脱炭素化への対応と地域社会の課題を結びつける

2020年、日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。これまで他の化石燃料と比較して環境性能に優れた一次エネルギーとして導入が進められてきたLNGも、将来的にはその脱炭素化が避けては通れない課題として浮上しています。

一方で、家畜ふん尿は、酪農・畜産業が継続する限り排出されるもので、エネルギー資源として活用の余地はあるものの、コストや取扱いの手間がかかることから、その普及は限定的なものとなっています。

大規模な酪農経営が行われている北海道では、家畜ふん尿の活用としてバイオガスプラントが普及しつつありますが、現状、バイオガスの用途としては、FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)を活用した電力販売に限られるとともに、地方部では、バイオガスプラントを設置しても、電力網の制約により売電ができないケースもあり、バイオガスが有効活用されていないといった実態もあります。さらに、ふん尿を原料とした堆肥を肥料として散布する際、臭気が街中に漂うことも大きな課題です。

エア・ウォーターは、再生可能エネルギーを活用したいLNGの消費者と家畜ふん尿由来のバイオガスをより活用したい酪農家に着目。双方の課題を結び付け、家畜ふん尿由来のバイオガスからクリーンエネルギーを製造する国内初の取り組みを開始。2021年には、環境省の実証事業※に採択され、地元の乳業メーカーのほか、酪農家、自治体、大学にも協力いただきながら、実施に向けた枠組みを整えてきました。
※環境省の「令和3-4年度 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」の「未利用バイオガスを活用した液化バイオメタン地域サプライチェーンモデルの実証事業」として採択

サプライチェーンモデルの実証を開始

本実証は大きく分けて3つの要素から成り立ちます。

 

バイオガス捕集システム
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バイオガス捕集システム

①バイオガス捕集・輸送システム
酪農家が保有するバイオガスプラントから、バイオガスを捕集し、吸着剤が充填された吸蔵容器へ吸蔵させていきます。満タンのバイオガスが吸蔵された容器をセンター工場へ輸送します。域内に点在する複数の酪農家から効率的にバイオガスを捕集していきます。システム全体をシンプルな構成とすることで、自動運転が可能となり、運転・管理に関する酪農家の負担はほとんどありません。

LBM製造プラント
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LBM製造プラント

②LBM製造システム
吸蔵容器からバイオガスを取り出し、メタンと二酸化炭素に分離。さらに精留することで高純度のメタンとした後、極低温まで冷却することで液化させ、LBMを製造します。メタンガスを液化することで体積が1/600となり、大量輸送が可能となります。
製造したLBMは、コールドボックスと呼ばれる真空断熱が施されたタンクに貯蔵し、タンクローリーで出荷します。

乳業メーカーのボイラー設備で品質検証
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乳業メーカーのボイラー設備で品質検証

③LBM品質検証
今回の実証事業では、センター工場で製造したLBMをタンクローリーで輸送し、近隣の乳業メーカーのボイラー燃料として消費し、問題なく活用できることを確認しました。これが国内初のLBM製造・消費事例となりました。タンクローリーや燃焼設備などの輸送や消費に関わるインフラをそのまま活用できる点がポイントです。

自動車、都市ガス、ロケット燃料としても活用を目指す

このたび設置したセンター工場は、年間約360トンのLBM製造能力を有しています。すべてLNGの代替として消費されると仮定すると、サプライチェーン全体で年間7,740トンのCO2が削減され、温室効果ガスは60%以上減る見込みです。LBMは、カーボンニュートラルのエネルギーとして普及が期待されるとともに、国産エネルギーでもあるため、エネルギー自給の点からもその活用はますます重要度が高まっています。

一方、課題は製造コストです。将来的には、原料提供先となる酪農家の増加、プラントの高効率化に加え、トラック燃料、都市ガスなどにも利用先を広げることでコストを下げ、環境に優しい燃料として普及させることを見据えています。

これまでは、コストが高いという理由から未利用資源を活用した再生エネルギーは、普及が進みませんでしたが、今後、炭素税が導入された場合などには、再生エネルギーが要望される時代となりえます。また、近隣の大樹町から打ち上げられるロケット燃料としても活用できないか検討されています。早期の事業化を見据え、新しい地産地消のエネルギー供給モデルを構築していきます。

掲載日:2023年1月

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