厚生労働省が掲げる「地域包括ケアシステム」の実現を目指し、開発に着手した遠隔医療支援システム。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、集中治療室(ICU)での感染管理強化が急務に。医療従事者の感染リスク低減に向けて、医療機関はどのような対策を講じたのでしょうか?

 

現在も収束の見えない新型コロナウイルスの感染拡大。2019年12月に中国・武漢市で発見された原因不明の肺炎はCOVID-19と名付けられ、世界中で感染者が発生しました。日本国内でも2020年3月下旬以降の感染者急増を受け、政府が全国を対象に「緊急事態宣言」を発出して外出自粛などを国民に呼びかけました。

医療従事者同士が遠隔で診療を行えるように

最前線で重病患者の治療にあたる集中治療専門医は、国内に約1,820名(2019年4月時点)しか存在しません。さらに、病院内の限られた病床(ベッド)が新型コロナウイルス感染症に罹患した患者で埋まってしまうと、医療サービスの提供が縮小し、最悪の場合、今まで当たり前に行なわれてきた地域での医療提供が叶わない「医療崩壊」が懸念されました。また、直近においては、病院内での医療従事者の二次感染、クラスターの発生などのリスクの低減が課題でした。

 

このような中、エア・ウォーターでは遠隔医療支援システム「NOALON」(ノアロン)を開発、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)が運営する県の臨時医療施設に導入しました。医療従事者の感染防止策として新型コロナウイルス感染症対応の病棟と離れた場所にある医局との連携や患者の容態監視に使用されています。この施設では、新型コロナウイルス感染症の患者がいるレッドゾーンと安全なグリーンゾーンを物理的に分離し、モニター画面を通してスタッフ同士がコミュニケーションを取っています。患者と話すこともできるため医師は遠隔でも診療でき、容態急変時の監視としての役割も果たしています。

「NOALON」で臨時医療施設とコミュニケーションを取っている様子(神奈川県 湘南鎌倉総合病院)
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「NOALON」で臨時医療施設とコミュニケーションを取っている様子(神奈川県 湘南鎌倉総合病院)

感染管理を強化し、より安全な医療環境を提供

レッドゾーンに入るにはPPE(個人防護具)の着用が必要で、一時期足りなくなる懸念がありました。入院患者は、複数の診療科の医師が対応するケースも多く、患者と対面で話すたびにPPEを着用するのは非効率な面もあります。遠隔医療支援システムを活用すれば、感染リスクを低減しながら、PPEの使用枚数を抑えることもできるのです。

 

「NOALON」の導入により医局と新型コロナウイルス感染症対応の病棟を結ぶことで、院内外で患者の容態監視が可能な環境をつくりだし、医療従事者の感染リスク低減の実現につなぐことができました。

NOALON 遠隔医療のイメージ
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NOALON 遠隔医療のイメージ

開発当初は「医療過疎地の病院でも、重篤な患者を診療できる仕組みをつくりたい」「過疎地で頑張る先生を支えたい」という想いからスタート。各病院で使用する医療機器が異なっていることや、病院同士の距離が離れている中で医師らが助け合うシステムを作り上げる工程では、何度も壁が立ちはだかりました。しかし、集中治療医たちの想いを開発チームで何度も共有し、意見を交わし、試行錯誤の末、製品が完成。「NOALON」という名前の由来はNot Alone “ひとりじゃないよ”という想いを込めたものです。

 

今後も、感染リスク低減だけでなく、医療の質の向上、患者の利便性向上への貢献、医療の地域格差是正など地域医療の充実を目指して製品の改良を続けてまいります。

 

更新日:2020年8月

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