未曾有の災害だった東日本大震災。そこで得た教訓をもとに、エア・ウォーターグループでは国内初のLPガスを使った「移動電源車」の開発プロジェクトを立ち上げました。移動電源車のミッションは、災害時でも比較的入手しやすいLPガスを燃料とする発電機を車に載せて、被災地に電力を供給すること。災害の多い日本では、今後も、地震や台風、豪雨や大雪といった自然災害によるライフラインの寸断が想定されます。そうしたなか、災害時に停電した施設への電源供給は必須の課題だと考え、社会的使命に応えるべく、壮大なミッションがスタートしました。
2011年に発生した東日本大震災。エア・ウォーター物流では、食品の保管管理と運搬業務を受託していたお客様から、被災地への食品配送依頼を受けました。しかし、当時は届けたいものがある倉庫に電気の供給がなく、身動きが取れない状態に。さらに、非常用発電機は、自動車用の燃料としてガソリン需要が逼迫したため、使用できない事態となっていました。この時、改めて、非常時における電源確保の重要性が浮き彫りになったのです。
一方、この震災を契機にして、都市ガスや電気と比較して分散型エネルギーであるLPガスは、ボンベ一つでガスを供給できるため機動性が高く災害に強い、と再評価を受けていました。しかし、そのLPガスも身近にあり災害に強いエネルギーであるものの、ガスを充填するのに電気が必要なことが浮き彫りになります。震災の混乱がひと段落した秋には、「ガスを扱う企業として、LPガスで発電できないか」という発想から、「LPガスを活用した動く発電所」の実現に向けて協議が始まりました。こうして、天災が多い我が国において、災害時の停電施設に電源を供給するLPガス仕様の移動電源車の開発が本格化していきます。
それまで同様のケースとして、ガスタービン仕様の移動電源車の製作実績はあったものの、LPガスは初の挑戦でした。それまで日本製のLPガス発電機がなく、搭載する発電機は海外から輸入する必要がありました。しかし、「災害用途に特化し、LPガスさえあれば、被災地で簡単かつ確実に発電ができる」というコンセプトが決まると、耐久性、車両の形態、重量、発電機の搭載方法、製造コストなど、課題を次々と解決していきました。
開発期間にまったく余裕がない中、携わったスタッフたちが余裕をもった期限で試作機を完成させられた背景には、「我が国には移動電源車が必要だ」という社会的ミッションを必ず成功させるという、スタッフの熱い思いがありました。
そして、2012年夏、あらゆる可能性を模索した設計段階を経て、トレーラー内のコンテナに発電機を納める軽量な車体が仕上がります。積載型と据え置き型の両面で使え、道路が寸断された先の被災地にヘリコプターなどでの移送も可能。試作機は、まず自社での使用を前提にガス充填所用として100kWの発電容量を持たせた装置となりました。
直後から完成した実機を使い、北海道や東北地方を中心にデモンストレーションを行うと、ディーゼル発電に比べ静音性や排気ガスのクリーンさに高評価が得られます。同時に、小電力で十分な施設のためにより小型の装置も求められるなど、新たなニーズが挙がり、すぐにラインアップの拡充にも取り組みました。
移動電源車は、各家庭のボンベをはじめ、全国のLPガスネットワークや充填拠点などから燃料の確保ができることが特徴です。発電に必要な道具すべてがコンテナに搭載されており、いつでも出動できる。さらに専用工具は一切不要で、夜間でも電源供給できるシンプル設計です。現在、エア・ウォーターでは、地域の災害対策として、全国の自社LPガス充填所等に移動電源車を配備し、予期せぬ災害へ備えています。
移動電源車は、2012年の北海道室蘭・登別地域の大規模停電、2016年の熊本地震をはじめ、多くの被災地で活躍しました。2018年9月の北海道胆振東部地震では、全道が長時間停電となる中、改めてその重要性が大きく認識されることになりました。
エア・ウォーターのLPガス二次基地(道内3ヵ所)では、100kW級コンテナタイプが各1台配備されており、タンクローリーへの充填や出荷が滞ることはありませんでした。また、各営業拠点に配備されていた小型タイプでは、被災地の避難所、福祉施設、食品工場等へ出動し、冷蔵庫・照明・炊き出し・携帯電話の充電のために電気の供給を行い、ライフラインの確保に貢献。
防災や減災の有効性を高めるための新たな装置開発も着々と進んでおり、社会の望みにつながる新たなチャレンジはこれからも続いていきます。
掲載日:2019年7月