北米の産業ガス市場は、3兆円を超える規模であり、日本の5倍以上と想定されます。鉄鋼、自動車、エレクトロニクスといった製造業や、食品・バイオサイエンスなどの先端技術分野が集積するのみならず、世界に先駆けて産業ガスの新しい用途開発が生み出される市場です。また、今後はCO2回収や水素など脱炭素に関連する需要も旺盛に伸長することが想定されており、規模・成長性の両面で需要拡大が見込まれています。

エア・ウォーターは、海外における産業ガス供給事業の拡大を見据え、産業ガスの製造・供給を通じて長年培ってきた極低温のハンドリング技術を強みに、2016年より北米及びアジアを中心としたグローバルな低温機器の製造・販売事業を展開しています。この間、産業ガス供給事業への参入を見据え、産業ガスメーカーとしての認知向上やディストリビューターとのパートナーシップ構築を進めてきました。

2022年以降は、米国現地のガスディストリビューターとの連携を通じて、産業ガスの供給事業を開始。事業展開エリアを拡大するともに、自社のガス製造プラントを設置することで、産業ガスの製造から販売まで一貫した事業インフラの構築に取り組んでいます。

主要拠点

オンサイトガス供給拠点 規模(トン/日)
米国ニューヨーク州ロチェスター市イーストマン・ビジネス・パーク内(2025年稼働予定) 240

北米における産業ガス事業

北米における産業ガス供給事業は、エア・ウォーターグループが成長を続ける上で、その原動力となる大きな柱の一つです。当社グループの北米事業を統括する100%子会社のエア・ウォーター・アメリカ社が中心となり、大口需要家へのオンサイトガス供給の獲得と現地パートナーとのアライアンスを通じて、市場開拓を進めています。

2023年には、AWアメリカが設計・製作を行い現地のガスディストリビューター連合に販売した空気分離装置が中部ミネソタ州で稼働。さらに、米国北東部ニューヨーク州ロチェスター市では、同地区の工業団地内に空気分離装置の建設し、2025年よりオンサイトガス供給を開始します。また、これに先立ち、同地を地盤とする産業ガスのディストリビューターをグループ化しました。

このように、プラントの設置と販売ネットワークやガス供給インフラの活用によって、産業ガスの川上から川下までの一気通貫のサプライチェーンを構築することで、北米における産業ガス供給事業を確立します。

Noble Gas Solutions, LLC(ノーブルガスソリューションズ)

米国ニューヨーク州を地盤とする産業ガスのディストリビューターです。1940年に設立された同社は、州都オールバニーに本社工場を持つほか、州内に2つの拠点を有し、強固な販売ネットワークを有しています。今後、同州ロチェスター市に設置する当社グループの北米における最初のガス製造拠点とも連携し、産業ガスの川上から川下までの一気通貫のサプライチェーンを構築することを目指しています。

Phoenix Welding Supply LLC.(フェニックスウェルディングサプライ)

米国アリゾナ州を地盤とする産業ガス・溶接材料のディストリビューターです。アリゾナ州は、半導体、航空宇宙、IT産業をはじめとした世界的企業の拠点が数多く集積しており、近年は大手半導体メーカーが最先端半導体工場の建設を進めるなど、ハイテク産業の大型投資が続く、高い経済成長を遂げているエリアです。Phoenix社を通じて北米南西部におけるプレゼンスを高めながら、事業基盤の構築を進めています。

American Gas Products INC.(アメリカンガスプロダクツ)

全米7ヵ所に充填所、米国本土全州に直売拠点や代理店などの販売ネットワークを持つヘリウム供給業者です。米国内における複数のガス田との独占的なヘリウム調達契約により、バルーン用ヘリウムガス市場において高いシェアを有しています。

今後、北米における産業ガス事業は、エアセパレートガス(酸素、窒素、アルゴン)以外の付加価値の高いガス種の取り扱いを拡充し、総合提案力を高めることで、半導体をはじめとする成長産業の需要を取り込みます。

産業ガス関連機器・エンジニアリング事業

エア・ウォーターグループは、小型から超大型までの深冷空気分離装置(ASU)や独自の吸着分離法による回収・分離・精製技術に加え、水素製造および炭酸ガス回収技術までフルラインアップで保有しています。こうした技術を強みとし、水素関連機器をはじめとした低温機器の製作拠点を東南アジア、北米、欧州の3地域で整備しながら、産業ガスエンジニアリング事業のグローバル展開を進めてきました。

また、北米では気候変動対策の高まりを受けて、再生可能エネルギーや脱炭素に関連する取り組みが急速に進展しています。カリフォルニア州で水素ステーションの開発・運営を手掛ける最大手のFirstElement Fuel,Inc.に出資するとともに、液化水素タンクやトレーラーなどの輸送機器を製造・販売するなど、水素バリューチェーンの構築を先行して手掛けており、水素・脱炭素に関わるガス・機器市場の開拓にも注力しています。

Air Water Gas Solutions Inc.(エア・ウォーター・ガスソリューションズ)

海外の深冷空気分離装置をはじめとする産業ガス関連プラントのEPC事業を行っています。

Taylor-Wharton Malaysia Sdn.Bhd(テーラー・ワートン・マレーシア)

マレーシアに製作拠点を有し、CEやLGCなどの貯槽用低温容器の製造を行っています。高品質でありながら、独自の製造ノウハウによりコスト競争力に長けた製品づくりを行っており、北米を中心にアジアなどグローバルな販売網を構築しています。

Taylor-Wharton America(テーラー・ワートン・アメリカ)

米国テキサス州に製作拠点を有し、産業ガスやLNGを運ぶための液化ガストレーラーや貯蔵するための液化ガスタンクなどの低温機器の製作を行っています。世界的な脱炭素化の動きに合わせ、高性能な断熱性能が要求される液化水素関連機器の製作に注力しています。

M1 Engineering Holdings Limited(エムワンエンジニアリング)

英国ヨークシャー州に製作拠点を有し、産業ガスやLNGを運ぶための低温輸送機器を製造するエンジニアリング会社です。1973年の創業以来、イギリスをはじめ欧州全域に強固な販売ネットワークを有しています。欧州における脱炭素化に向けた液化水素の需要拡大を見据え、当社グループのエンジニアリング技術を移管し、液化水素関連機器の製造・販売を行います。

TOMCO2 SYSTEMS COMPANY(トムコ)

食品・飲料向けの液化炭酸ガス関連機器の製造やメンテナンス分野において、米国市場を中心に、豊富な実績を有しています。高い技術力を活かし、工場等に併設される炭酸ガス供給設備のエンジニアリングや炭酸ガスローリーの設計・製作のほか、炭酸ガスを利用した水処理設備や消火設備等など幅広い領域で同社の技術が活用されています。

Dohmeyer Holdings BVBA(ドゥーメイヤー)

ベルギーとポーランドに製造拠点を有し、食品の冷凍加工及び医療・バイオの凍結保存向けに、冷媒として極低温の液化窒素や液化炭酸を使用する凍結・冷蔵・冷凍・保管システムの製造を手掛けています。

FirstElement Fuel, Inc.(ファーストエレメントフューエル)

エア・ウォーターは、米国カリフォルニア州で水素ステーションの開発・運営を手掛けるFirstElement Fuel社(FEF社)に出資しています。同社が推進する水素ステーション網の拡充を支援すると共に、関連技術や事業のノウハウを蓄積し、水素事業の拡大を視野に入れた取り組みを進めています。