自然災害が頻発する昨今、防災への意識や災害に対する備えの重要性はますます高まっています。そのような中、災害の被害を最小限にしたいという思いで事業を推進してきたのが、グループ会社のエア・ウォーター防災です。「人の生命と財産を守る」という理念のもと、創造と挑戦を続け、安全・安心を生み出しています。今回は、エア・ウォーター防災の取り組みを紹介します。

エア・ウォーター防災は長年培ってきた「高圧ガス制御技術」をベースに、医療、消火、呼吸器事業を展開しています。手術室や医療ガス設備をはじめとした医療設備の総合メーカーであるとともに、窒素や二酸化炭素などを使ったガス消火設備や、真空スプリンクラーシステムなどを扱う防災エンジニアリングメーカーでもあります。また、祖業である呼吸器事業では、国産初の酸素呼吸器を開発して以来、消防士が使う空気呼吸器や船舶用の呼吸保護具など、用途に応じた様々な呼吸器を展開しています。

手術室
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手術室
病室の壁に埋め込まれた
医療ガス配管設備で医療ガスを供給
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病室の壁に埋め込まれた
医療ガス配管設備で医療ガスを供給
窒素消火設備
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窒素消火設備

総合的な防災事業に取り組む中で生まれた、かつてないスプリンクラー設備

エア・ウォーター防災は、ガス消火をはじめとする各種消火設備を開発し、各々の状況に最もふさわしい消火・防災設備を総合的に提案しています。その1つであるスプリンクラー設備は従来、地震や工事によって配管が破損すると装置が火事と誤って認識し、放水による水損事故を引き起こしてしまうという課題がありました。エア・ウォーター防災は、人の生命に関わる病院などが、災害時に水損で機能マヒに陥ることがあってはならないと考え、同社独自の全く新しい乾式タイプの「真空スプリンクラーシステム」を開発しました。乾式とは、文字通り配管内に水がない状態のスプリンクラー設備で、データセンターや半導体工場など極端に漏水事故を避けたい建物や、寒冷地など配管内の水が凍結する恐れのある建物などに多く用いられます。配管内が真空に近い状態に維持されているため、配管の劣化・腐食による漏水を防ぐことができ、火災発生時には末端までスムーズに充水され、素早く放水ができる、これまでになかった画期的な製品です。

配管内が真空に近いため、漏水が起こらない
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配管内が真空に近いため、漏水が起こらない
火災発生時には素早く放水
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火災発生時には素早く放水

“見せる”がコンセプトの研究開発センターで、防災設備の性能などを検証・評価

真空スプリンクラーシステムをはじめ、防災設備導入の有用性を実感してもらうためには、その仕組みを実際に目で見て確かめてもらうことが一番。神戸本社内の研究開発センターでは“見せる研究開発施設”をコンセプトに、ガラス越しに室内の状況がわかる検証室や、大規模な実験に適した多目的実験場などを備え、防災設備などのデモンストレーションや各種試験、評価を行っています。
消火設備の性能は、火が消えることでしか担保できません。研究開発センターを活用し、実際に近い環境下で消火実験をご覧いただくことで、安心と納得を付加して納入することができます。たとえば、真空スプリンクラーシステムについては、透明な配管を用いてデモンストレーションを行い、配管内への水の流入状態などを観察いただいています。また、空間を自由に変えて高層・大空間の環境を再現できる検証室では、立体駐車場や大型サーバーが並ぶデータセンターを想定した検証が行えます。

スプリンクラー設備のデモンストレーション室
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スプリンクラー設備のデモンストレーション室
目的に応じて高さや広さを調整可能な検証室
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目的に応じて高さや広さを調整可能な検証室

地震への備えの確かさを実証する振動試験センター

防災・消火製品の開発にあたって、当初抱えていたのは「いかに消火性能が高くとも、地震の揺れで転倒や破損して、肝心なときに作動しないのでは意味がない。もし、大地震の際に使えなかったら災害が広がってしまう」という思い。そこで、「地震の揺れを再現する振動試験を自社で行うことができれば、耐震性を高めた、より安全・安心な製品が提供できる。ひいては、それが防災・減災につながる」と考え、振動試験センターを自社内に設置しました。
ここでは、製品の耐震性を高め、大地震による転倒や破損を未然に防ぐことを目的に、地震の揺れをリアルに再現した試験を実施。大型の対象物も試験が可能で、地震対策に必要な前後・左右・上下の3軸で同時に加振できる施設は国内に数箇所しかありません。さらに、高加速度の試験も実施可能であり、同規模の試験台を有する試験場の中で国内最高水準の施設です。こうした特長を生かし、特に東日本大震災以降、従来以上の耐震性が求められている電力や通信分野で使用される設備の耐震性実証も数多く行っています。

試験体を10t車両で搬入できる広い建屋内
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試験体を10t車両で搬入できる広い建屋内
大型3軸同時加振試験装置での試験の様子
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大型3軸同時加振試験装置での試験の様子

防災エンジニアリングメーカーとして

このようにエア・ウォーター防災では、消火試験や振動試験をご覧いただき、その確かさを実証することによって、少しでも多くの皆さまに災害への備えを徹底していただけるよう努めています。もちろん研究開発センターの機能は、実験結果をお見せするだけではありません。たとえば、ガス系消火剤は、より高い性能と安全性を求める開発が日々世界中で行われていますが、新しい消火剤が出るたびに、あらゆる環境での検証が必要であり、この実証も行っています。また医療事業や呼吸器事業で扱う機器や各種呼吸器の環境試験、作動評価なども実施しており、これも災害時に生命を救う活動のサポートにつながるものです。さらに、研修会などに使えるコミュニケーションルームも備えており、すでに各地の消防士の研修などに利用されています。
エア・ウォーター防災はこれからも、防災エンジニアリングメーカーとして、安全・安心な暮らしを守ることに貢献していきます。

 

更新日:2023年7月