エア・ウォーターは祖業である「産業ガス」を中心に、半世紀にわたり、宇宙産業に貢献しています。
宇宙に向けてロケットが上空に勢いよく飛び立ち、大気圏を突破するには大きなパワーが必要です。その秘密は、ロケット燃料の原料となる産業ガス、とりわけ液化ガスでした。

半世紀以上にわたり宇宙産業と関わってきた

宇宙分野との関わりはエア・ウォーターの前身3社、大同酸素、共同酸素、ほくさんのそれぞれでありました。1973年、大同酸素は宇宙開発事業団(NASDA)のH-1ロケットの開発プロジェクトに参加し、エンジンに送る液体酸素、液体水素の配管系の精密なガスコントロール技術に携わりました。


共同酸素は、鹿島工場や和歌山工場で産業ガスのキセノンを製造し、各種人工衛星のエンジン推進剤として供給。2003年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」にも、キセノンを供給した実績があります。


さらに、ほくさんは1991年、廃坑を活用した、当時としては世界最長の無重力実験施設「地下無重力実験センター」(北海道上砂川町)への出資をきっかけに、NASDAや室蘭工業大学が進める宇宙の研究開発にも携わってきました。


2000年のエア・ウォーター発足以降も、このように宇宙関連の試験や設備に産業ガスを提供するだけでなく、大学や宇宙関連事業者の方々と一緒になり、試験設備や機材製作の基盤を築いてきたのです。

提供:SPACE COTAN
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提供:SPACE COTAN

2021年には、北海道で宇宙開発を担う組織、北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)、北海道スペースポート研究会、アジアの商業宇宙港「北海道スペースポート」を推進する北海道大樹町やSPACE COTANを人材面や資金面で支援するほか、設備や技術的なサポートもしています。当然、宇宙関連の試験で使う設備のほとんどで産業ガスが必要なため、関連した許認可や有資格者が必要になりますが、まさにそこが当社の強みです。

人工衛星用にキセノンを供給

イオンエンジンを噴射して加速するDESTINY+探査機
提供:JAXA
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イオンエンジンを噴射して加速するDESTINY+探査機
提供:JAXA

探査機は本体に蓄えた質量を放り出し、その反動を利用して飛行しています。イオンエンジンの推進剤として使われるキセノンは、レアガス類の中で質量が重いため、宇宙空間に噴射したときの反動をより得られて進むという原理を使い、人工衛星を制御します。さらに、キセノンは常温でも低温でも宇宙空間では気体という性質があります。人工衛星の表面は大変冷たいため、他のガスだと液体や固体に戻る可能性があり、それがほんの少しでも人工衛星につけば汚れてしまいますが、キセノンにはその心配もありません。
当社のキセノン製造拠点は、現在、鹿島工場と加古川工場にあり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)向けに供給した実績があります。

ロケットのエンジン加圧用や機器の冷却用として活躍するヘリウム

X線分光撮像衛星 “XRISM”
提供:JAXA
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X線分光撮像衛星 “XRISM”
提供:JAXA

ロケットは、燃料(液体水素)と酸化剤(液体酸素)の2つをあわせた「推進剤」を燃やして、高温状態で高圧ガスを排出しながら飛んでいきます。ロケットの中には推進剤のほかに、エンジンや各種機器、ヘリウムによって推進剤を送り出すための加圧タンクが積まれています。このエンジン加圧用のヘリウムを供給しています。

 

さらに、2023年9月にJAXAが種子島宇宙センターから打ち上げたX線分光撮像衛星“XRISM”に対しても、ヘリウムを供給しています。星からやってくるX線はごくわずかで、その温度上昇はあまりに小さいため、検出器を絶対零度近くまで下げなければ温度変化を検知できません。そのため、冷却用として液体ヘリウムが用いられます。今後、この検出器で集めたX線を、宇宙で観測対象にあてて温度変化を計測することで、物質のエネルギーを測り、宇宙の新たな姿を明らかにしていきます。

 

このように、ロケットの発射や最新の研究開発を推進するのに欠かせない存在として、産業ガスはとても重要なのです。

宇宙空間で生活するための 「CO2回収技術」

宇宙船内向けのCO2回収装置を開発中
(写真は当社の地上試験機)
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宇宙船内向けのCO2回収装置を開発中
(写真は当社の地上試験機)

宇宙飛行士は1日で約1kgのCO2を吐き出すため、宇宙船内でCO2をそのまま放置するとCO2中毒により宇宙飛行士は呼吸ができなくなります。そこで当社は、宇宙船内のCO2を吸着剤で回収する装置の検討に着手。地上試験機を製作し、試験を行っています。

宇宙でもおいしく食事を摂れるように~宇宙食の製品開発にも参画~

コスモバーグ
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コスモバーグ

 

実はエア・ウォーターグループは宇宙食の製品開発にも関わっています。
グループ会社で食品加工会社のエア・ウォーター十勝食品(現・北海道エア・ウォーター・アグリ)が製品開発に参画したレトルトハンバーグ「北海道産牛肉とミニトマトのハンバーグ」(商品名:コスモバーグ/製造元:有限会社十勝スロウフード)が、2021年1月18日付でJAXA により「宇宙日本食」として認証されています。


宇宙日本食は国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在を予定している日本の宇宙飛行士に、日本食の味を楽しんでもらい、長期滞在の際の精神的なストレスを和らげ、ひいては仕事の効率の維持・向上につながることを目的として開発されたものです。2023年10月現在で、52品目がJAXAより認証を取得しています。

宇宙産業の発展に向けて

宇宙はまだまだ研究段階で、生命の秘密が隠された未知なる領域です。そのため人類による宇宙空間の調査は今後ますます加速していくでしょう。ロケットを打ち上げる際に放出される微粒子がオゾン層の消失を加速させる可能性があるため、ロケットの燃料も地球にやさしく、サステナブルなものに代替していくことが課題となっており、当社でもその研究を行っています。今後も、当社はガスや関連機器、ソリューションの開発によって宇宙産業の発展に貢献してまいります。

更新日:2023年10月